机に向かい、発信者情報開示請求書を手書きで作成している女性

Twitterや2ちゃんねる、無料ブログなどのインターネット上で誹謗中傷されたとき、まずするべきことは誹謗中傷の書き込みが拡散しないように投稿を削除することです。

しかし、誹謗中傷によって精神的苦痛を被った、書き込みが悪質なので今後も同じようなことが起きないように徹底的に対処したい、というときには、発信者に対して慰謝料や損害賠償を請求したり、名誉毀損罪で告訴して刑事的責任を取らせたりといった対策をとることができます。

その時に必要なのが発信者の個人情報を特定することです。投稿を削除するための送信防止措置依頼はプロバイダを介して手続きをすることができましたが、民事責任や刑事責任の追及は本人に直接行う必要があるからです。

【プロバイダ責任制限法4条】発信者情報開示請求ができる要件

発信者情報開示請求では、発信者の氏名や住所など重要な個人情報の開示を求めます。もしもしっかりとした理由がないのにプロバイダ側が情報開示してしまうと大変なことになりますので、プロバイダ責任制限法は発信者情報開示請求ができる要件を定めています。

情報の流通により自己の権利が侵害されたこと

発信者情報開示請求は原則として、権利を侵害された本人が行う必要があります。開示請求を本人に代わって行うことができるのは弁護士のみとなっているので注意してください。これは、発信者情報開示請求が法律事件にあたるとされているからです。

法律事件に関しては、弁護士または弁護士法人以外は報酬を得る目的で代理や仲裁、和解などを行うことができないとされています(弁護士法72条)。

弁護士ではない誹謗中傷対策業者が発信者情報開示請求を代行することはできませんので、代行を謳っている業者には注意してください。ちなみに、提携している弁護士を斡旋して仲介手数料を受け取るといった行為も弁護士法違反になるとされています。

参考:ネット誹謗中傷の解決は対策業と弁護士どっちに依頼?正しい選び方

侵害情報の流通によって権利が侵害されたことが明らかなこと

誹謗中傷の書き込みにより、被害者の権利が侵害されていることが一般的な視点で見ても明らかであることが求められます。

例えば、匿名でSNSを利用しているのに本名をバラされたとしたらそれはプライバシーの侵害といえますし、「会社で不倫をしている」など虚偽の情報を掲示板などに投稿されれば名誉毀損になりえます。このように、何らかの権利が侵害されている必要があります。

もう一つの要件として、違法性阻却事由(その行為が誹謗中傷に当たるとしても、何らかの理由で違法性がないとされる)がないことが必要です。

例えば名誉毀損罪(刑法230条)では、誹謗中傷したとしても「名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係り」「その目的が専ら公益を図る目的にあった」場合には違法性が阻却されて名誉毀損罪とは言えなくなると定められています。このような違法性阻却事由が認められれば、プロバイダ責任制限法4条の要件は満たしません。

発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること

被害者が発信者の情報開示を受けるためには、正当な理由が必要です。発信者情報開示請求によって開示される情報は本名や住所など、発信者のプライバシーに関わる重大な個人情報ですので、発信者側に対してもプライバシーの配慮をする必要があります。

そのため、被害者側には発信者情報開示請求をするための正当な理由が求められます。
具体的には、慰謝料や損害賠償など民事上の責任を問う・刑事告訴する・投稿削除請求を行うといったような例が挙げられます。

その一方で、自分の被害感情を回復するだけのため、私的制裁のためといったような主観的な目的のみの場合には発信者情報開示請求は認められません。

発信者情報開示では誹謗中傷の投稿者の何を知ることができる?

発信者情報開示請求によって開示される情報については、プロバイダ責任制限法4条1項で定めがありますが、詳しくは「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」で定められています。
この要件以外の情報を開示してもらうよう請求することはできません。

  • 氏名
  • 住所
  • メールアドレス
  • 侵害情報を流出した際のIPアドレス
  • IPアドレスと組み合わされたポート番号
  • 侵害情報に係る携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号
  • 侵害情報に係るSIMカード識別番号
  • 侵害情報が送信された年月日、時刻

発信者情報開示請求手続きの流れ

まずIPアドレス開示請求

発信者情報開示請求では、最終的に発信者の個人情報を開示してもらえれば目的が達成です。しかし、SNSや無料ブログなどのサイトの管理人が発信者の本名などの個人情報を保有していないケースは多いものです。

無料ブログなどを開設したことがある人はわかるかと思いますが、開設するために必要な情報はメールアドレスだけということも。名前や生年月日を入力させるサイトもありますが、それが虚偽の情報であっても確認する手段はありません。

登録するメールアドレスも、ヤフーなどのフリーアドレスで可能なので、最悪の場合はフリーアドレスのアカウントを削除してしまえば本人にたどり着くことは不可能です。

しかしサイト管理人は個人情報を保有していなくても送信されたIPアドレスを保有しています。そのため、まずはサイト管理人に対して誹謗中傷の投稿を特定するためのIPアドレス開示を請求します。

IPアドレスとは10桁や11桁の数字からなるもので、通信機器に割り当てられた数字です。「インターネット上の住所」と呼ばれることもあり、この数字と時間帯がわかれば、どのネットワーク機器からインターネットにアクセスされたかがわかります。

IPアドレスがわかれば、そこから辿っていけば、誹謗中傷の投稿がどのインターネットプロバイダを通じて行われたかがわかるのです。

IPアドレスからプロバイダを特定する

IPアドレスがわかれば、そこからプロバイダを特定します。IPアドレス検索サービスを無料で提供しているサイトは数多くあるので、そこでIPアドレスを入力して検索すれば、利用しているインターネットサービスプロバイダがわかります。
IPアドレス検索サイト例:IP SEARCH

プロバイダに発信者情報開示請求

インターネットサービスプロバイダが特定できれば、そのプロバイダに対して発信者情報開示請求を行うことになります。
発信者情報開示請求は一般的には請求書を作成して郵送で手続きをしますが、手続きの際には請求書以外にも必要な添付書類が指定されていますので、プロバイダの発信者情報開示請求手続きに関するサイトはしっかりと確認しておきましょう。

【注意!】ログ保存請求も忘れずに

インターネットサービスプロバイダが特定でき、発信者情報開示請求を行う際には、合わせてアクセスログの保存請求をしておくことが大切です。

アクセスログは通常数ヶ月で削除されてしまうため、対処しなければ開示請求中にログが消えてしまう可能性もあります。アクセスログが消えてしまえば、IPアドレスがわかっても発信者を特定することができません。

ログの保存請求は、発信者情報開示請求書を送付する時に合わせて要請書を作成して同封しましょう。保存請求をしたからといって必ずしもそれに応じてくれるとは限らず、判断はプロバイダ側の任意となってしまいます。

しかしほとんどのプロバイダが何らかの対応をしてくれるようですし、心配であれば裁判上の仮処分手続きを活用して「発信者情報消去禁止の仮処分」を申立てる方法もあります。

発信者が情報開示を拒否した場合

発信者情報開示請求されたプロバイダは、自己判断で自由に発信者の情報開示ができるわけではありません。原則として発信者に対して「意見照会」を行う義務があります。意見照会とは、発信者の個人情報を開示しても良いかどうかの確認です。

情報開示は発信者のプライバシーという重要な権利を侵害することになるので、こういった手続きが必要になっています。ただ、発信者と連絡が取れないときなどは意見照会の義務はありません。

ちなみにプロバイダ責任制限法では、発信者情報開示請求に応じなかったとき、そのことによって被害者に損害が生じることを知っていた、または当然知ることができた場合にのみ被害者に対する損害賠償責任を認めています。(プロバイダ責任制限法4条4項)

プロバイダに送る発信者情報開示請求書の書き方

発信者情報開示請求書はテレコムサービス協会が書式を公開していますので、その書式を利用すると便利です。テレコムサービス協会は、プロバイダ責任制限法のガイドラインを作成したり、発信者情報開示請求や送信防止阻止手続きなどの諸手続きに関する書類などを公開したりしています。

外部サイト:プロバイダ責任制限法関連情報webサイト

権利を侵害されたと主張する者

開示請求書には、権利を侵害されたと主張する本人の住所や氏名、連絡先を記載します。もしも弁護士を代理人に立てる場合は代理人についても住所や氏名などを記載し、委任状を添付する必要があります。

氏名の横には印鑑を押印しますが、この印鑑は印鑑登録をしている実印を使用してください。一般的に発信者情報開示請求書を提出するときは、合わせて印鑑証明書の提出が必要だからです。

掲載された情報

実際に誹謗中傷の投稿がなされたとき、その投稿について記載します。例えば「私の実名を出して、会社の○○と不倫関係にある」など社内関係者を装った書き込みがされた」など、実際にどんなことが掲示板などに書かれているのかをここに詳しく書きます。

多くて枠内に入りきらない場合は別紙にまとめたものを添付し、掲載された情報の欄には「添付資料の通り」などと記載します。

侵害された権利

実際に誹謗中傷によってどんな権利が侵害されているのかを明らかにします。上の事例であれば、不倫をしているという虚偽の情報を広めることによって被害者の名誉権を侵害していますので、名誉毀損となります。
この他、実名が出されているのでプライバシーの侵害にもあたります。事例によって侵害される権利は異なりますが、それが1つとは限りません。

権利が明らかに侵害されたという理由

なぜ権利が侵害されたと言えるのか、損害が生じているのかどうかなどをここに記載します。例えば、「対象となる人と不貞関係にはないにも関わらず、あたかも不倫が事実であるかのようにネット上で暴露され、社内で嫌がらせを受けて精神的苦痛を被った」などです。

開示を受けるべき正当理由

正当理由については、情報開示請求書に5つ選択肢が記載されているので、その中から適切なものを選びます。具体的には以下の通りです。

引用サイト:http://www.isplaw.jp/d_form.pdf

  • 1.損害賠償請求権の行使のために必要であるため
  • 2.謝罪広告等の名誉回復措置の要請のために必要であるため
  • 3.差止請求権の行使のために必要であるため
  • 4.発信者に対する削除要求のために必要であるため
  • 5.その他(具体的に記入する)

1〜4に該当しない理由がある場合は、5に記載します。

開示を請求する発信者情報

発信者のどんな情報を開示して欲しいのかについて選択します。ここは、発信者の氏名や住所、メールアドレスなど、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」に例示列挙されている7つの項目となります。開示を希望する項目にチェックをします。

証拠

発信者情報開示請求書には、証拠を添付しなければなりません。証拠はプロバイダが使用するもの、発信者に意見紹介をする時に発信者に見せるものの2部を用意します。完全に同じものである必要はなく、発信者には証拠として見せて欲しくないというものがあれば、発信者に開示する証拠一式の中からそれは外しても構いません。

発信者に開示したくない自己情報

発信者情報開示請求が来たとき、プロバイダは発信者に対して「情報を開示しても良いか」という意見照会を行います。そのときに、「どんな内容の書き込みで権利の侵害が発生しているのか」などを明らかにするために、発信者には被害者側の情報も開示することになります。

しかし、トラブルを避けるために発信者に開示して欲しくない情報もありますよね。それに、むやみに個人情報を相手に知られてしまえば個人が特定され、二次被害に遭わないとも限りません。
発信者に情報開示しなくてもよいと認められる被害者の情報は以下の3つです。

  • 氏名
  • 「権利が明らかに侵害されたとする理由」欄の記載事項
  • 添付した証拠

この中で、相手に開示して欲しくない情報があればチェックを入れておけば、意見紹介の時に発信者に伝えられることはありません。

発信者情報開示請求書の添付書類例

発信者情報開示請求書を作り終えたら、あとはプロバイダに対して郵送するだけです。しかし送付する際には添付書類が必要なことがほとんどですので、どんな書類が必要か必ずチェックしてください。もしも送付する書類に不備があれば、その分さらに情報開示の対応が遅れ、誹謗中傷の被害が広がってしまいかねません。
一般的に必要とされる添付書類をピックアップしました。

印鑑証明書

印鑑証明書は、発信者情報開示請求書が被害者本人が作成したものであるということを示すために必要です。発信者情報開示請求書には印鑑証明書と同じ印鑑を押印しなければなりませんが、これによって情報開示請求書が真正であることを裏付けることになります。

もしも印鑑登録をまだしていない場合は、住民登録しているところの自治体で手続きをしてください。

本人確認資料

情報開示請求が被害者本人から送られて来たものであることを担保するために添付が必要となるのが、本人確認資料です。運転免許証やパスポート、健康保険証などが本人確認資料として指定されていますので、プロバイダが指定する本人確認資料を添付します。

本人確認資料の中にはそれ1つの添付だけで済む場合と、他に書類を組み合わせなければならない場合がありますので注意してくださいね。

IPアドレスや書き込み日時を証明する書類

誹謗中傷を行なったとされる発信者を特定するためのIPアドレスや、誹謗中傷の書き込みが載っている掲示板などの画面をキャプチャしたものなどの書類の添付が必要とされることもあります。

これらは、プロバイダ側が誹謗中傷の書き込みを簡単に特定するために必要となる書類です。

誹謗中傷投稿の発信者情報開示には開示請求訴訟が有効

ここまで裁判外の手続きで発信者情報開示請求を行う方法について見てきました。しかし、先ほども説明した通り発信者情報開示請求によって開示されるのは発信者の氏名や住所など、プライバシーの根幹とも言える重要な情報です。

そのため、プロバイダ側は情報開示には基本的に慎重です。裁判外の情報開示請求に応じるケースは非常に少ないと考えていいでしょう。

そこで、発信者情報開示請求訴訟を起こす必要が出てきます。発信者情報開示請求訴訟で裁判所から開示請求を認める判決が出れば、プロバイダ側も情報開示に踏み切ってくれるケースがほとんどです。

ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求は弁護士に相談を

発信者情報開示請求について見ていきましたが、IPアドレスの開示よりも発信者情報開示はかなりハードルが上がります。一般的には訴訟によらずに個人で手続きをしてプロバイダ側が情報開示してくれるケースとなると、かなり条件が絞られてきます。

原則として、発信者情報開示請求は訴訟によるものと考えておくべきでしょう。
発信者の情報がわかったらいよいよ本来の目的である刑事告訴や民事訴訟、示談交渉などに進むわけですが、訴訟や示談交渉となると法的知識やITトラブルに関する知識、経験が豊富な方が有利です。

個人で行うよりも法の専門家である弁護士に依頼することが、解決への早道です。
まずはお気軽にご相談ください。