ネット上で誹謗中傷を受けたとき、被害者は、プロバイダに対して削除依頼をしたり発信者情報開示請求をしたりと、プロバイダとやりとりをすることも多いものです。
そのときに必ずといっていいほど関わってくる法律が「プロバイダ責任制限法」です。正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」と言います。

プロバイダ責任制限法は簡単に言えばプロバイダの責任について定めたものですが、具体的にはどんなことが定められているのでしょうか?また、誹謗中傷を受けたときにどう役立つのでしょうか。プロバイダ責任制限法について見ていきましょう。

プロバイダ責任制限法が制定された背景とその趣旨

ツイッターやFacebookなどのSNS、掲示板やブログなど、インターネット上で誹謗中傷を受けたときの対策方法としては以下の方法があります。

  • 投稿を削除してもらう
  • 発信者に対して損害賠償・慰謝料を請求する
  • 発信者を名誉毀損罪や業務妨害罪などで刑事告訴する

しかし、誹謗中傷を受けた人が投稿の削除要請をすることは容易ではありません。
発信者を特定するためには、コンテンツプロバイダやインターネットサービスプロバイダに対して発信者開示請求を行う必要がありますし、発信者が分かったとしても直接交渉して投稿の削除を要請してもそれが受け入れられるとは限りません。

発信者としては、表現の自由の元に投稿していると主張して削除を拒むことも考えられますし、そもそも削除要請に法的根拠がなく応じる必要がないと判断されてしまうことも考えられます。

そこで必要なのがプロバイダの協力ですが、誹謗中傷を受けた人からの開示請求や削除依頼があったときに、それに応じるべきかそうでないかの基準がなければプロバイダも判断がつきません。

そのために制定されているのがプロバイダ責任制限法です。プロバイダ責任制限法は、具体的にはプロバイダの損害賠償責任や発信者情報開示について規定しています。

プロバイダ責任制限法は誰に適用されるのか?

プロバイダ責任制限法の主体

プロバイダ責任制限法の主体となるのは「プロバイダ」ですが、プロバイダとは具体的には誰を含むのでしょうか?

プロバイダ責任制限法には「送信電気通信役務提供者」と規定され、「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者」と定義されています。(引用:サイト元はhttp://www.isplaw.jp/isplaw_aim.pdf)

具体的にはSo-netやニフティ、BIGLOBEといったインターネットサービスプロバイダや、ツイッターなどのSNS、アメブロなどの無料ブログを運営するサーバの管理者などが主体となります。

プロバイダ責任制限法の保護権利

プロバイダ責任制限法は、誹謗中傷があればどんなケースでも適用されるわけではありません。適用されるには「特定個人の権利侵害」が発生していることが必要です。
また、問題となるのは誹謗中傷の投稿や書き込みそのものではなく、それを不特定多数が受信できる状態に流通させていることが問題です。

そのため、もしも何らかの投稿が誹謗中傷としてプライバシー権や名誉権の侵害にあたったりわいせつ物だったりしたとしても、それが特定個人の権利を侵害していなければプロバイダ責任制限法は適用されません。

誹謗中傷の送信防止措置(投稿削除)に関するプロバイダ損害賠償責任

ネットに投稿された誹謗中傷の書き込みは削除してほしいと考えるのが当然ですが、削除依頼をすることをプロバイダ責任制限法では「送信防止措置」と呼びます。
プロバイダが送信防止措置をした場合の損害賠償責任の範囲、および発信者情報開示請求について定められています。まずは送信防止措置をした場合の損害賠償責任の範囲について見ていきましょう。

誹謗中傷の被害者は発信者とプロバイダに損害賠償を請求できる

自社が提供しているプロバイダサービスを利用した人がなんらかの権利を侵害する書き込みを投稿したとき、被害を受けた側は発信者に対してもプロバイダに対しても損害賠償を請求することができます。

発信者は誹謗中傷を書き込んだ本人であり、損害賠償を請求できるのは当然です。しかしプロバイダに対しては当然に損害賠償請求が認められるわけではありません。一定条件下ではプロバイダの損害賠償責任はプロバイダ責任制限法によって免責されるのです。
では、プロバイダはどのような条件であれば損害賠償責任が免責されるのでしょうか。

誹謗中傷されている被害者に対する責任の免責

対象となる書き込みが、誹謗中傷にあたるなどして特定個人の権利を侵害していることをプロバイダ側が認識している、または認識していて当然の理由がある時で、その書き込みを不特定多数が閲覧できない状態にすることが技術的に可能な場合に限り、プロバイダは損害賠償の責任を負うと定められています。

ただ、プロバイダに損害賠償責任が免責されるかどうかについての最終的な判断は裁判所が行うことになります。

誹謗中傷の発信者に対する損害賠償責任の免責

送信防止措置を取ってほしいと権利侵害の被害者から要求があったとき、プロバイダは投稿の発信者に対して「この投稿の送信防止措置を取ってもよいか」という意思を発信者に確認します。

プロバイダからの照会に対し、発信者は「防止措置に同意しない」と反論することができますが、このような反論がなく7日が経過した時には、権利侵害にあたるとされる投稿を削除するなどの措置を取ったとしても発信者に対して損害賠償の責任を負いません。

ちなみに、発信者への確認作業はプロバイダの義務ではなく任意となります。発信者と連絡がつかないこともあるからです。また、もしもプロバイダが発信者への確認をするまでもなく「この投稿は被害者の権利を侵害している」と判断すれば、確認なく送信防止措置が取られることもあります。

このほか、選挙など公職に関しても損害賠償の特例が定められています。詳しくはプロバイダ責任制限法3条を参照してください。

誹謗中傷の投稿者を特定する「発信者情報開示請求」

送信防止措置をした場合の損害賠償責任の範囲とあわせ、プロバイダ責任制限法で規定されているのが「発信者情報開示請求」です。

被害者が発信者情報開示請求できるのはどんなとき?

誹謗中傷を受けたりプライバシー権を侵害されたりした場合、対策としてはプロバイダに投稿の削除を要請することができました。この時点では、誹謗中傷によって権利を侵害された人は発信者を特定して個人情報を知る必要はありません。

しかし発信者に対して損害賠償を請求したい・刑事罰を受けさせたいので刑事告訴したいと考えたとき、被害者はまず誹謗中傷などの投稿をした発信者を特定しなければなりません。

ネット上の誹謗中傷が本名でされることはまずありません。大抵は「捨てアカ」と呼ばれる使い捨てのアカウントやIDで悪質な書き込みがなされます。
発信者を特定するため、被害者はプロバイダに対して「発信者情報開示請求」ができるのですが、どんなケースでも請求が認められるというわけではありません。

プロバイダ責任制限法4条では、以下のケースに該当する場合に発信者情報開示請求の要件を定めています。

  • 誹謗中傷などの権利侵害の書き込みがネット上などに流通することで、権利が侵害されたことが明らかな場合
  • 発信者開示請求に正当な理由があるとき

もしも発信者情報開示請求する場合は、権利侵害によって何かしらの損害が生じていることを主張できなければ情報開示請求が認められないので注意してください。

発信者情報を開示されるのは意外に困難

誹謗中傷を受けたといって発信者開示請求を行ったからといって、必ずしも発信者情報開示がなされるわけではありません。むしろ認められるケースは少ないと言っていいでしょう。開示を請求している情報は個人の本名や住所などは極めて重要な個人情報だからです。

それに、書き込みを行った発信者にしてみれば、できるだけ開示されたくない情報です。
そのためプロバイダ責任制限法では発信者に配慮し、発信者情報開示請求を受けたプロバイダは開示請求をしていいかどうかを発信者に確認するよう定めています。

この確認についてですが、発信者と連絡が取れないなどの事情がない限りは基本的には義務となっています。

プロバイダに損害賠償できる条件とは

発信者情報開示請求にプロバイダが応じないまま誹謗中傷やプライバシー権の侵害などの被害が拡大したとき、プロバイダ側が損害の発生を知っているのに開示に応じない・または知ることが当然なのになんらかの不注意で知ることができずに開示に応じなかった場合(故意・重過失)には、権利侵害を受けた被害者はプロバイダに対しても損害賠償の請求ができます。

逆に、プロバイダが権利侵害によって損害が発生していることを知らないことに正当な理由があるときは損害賠償責任が免責されることになります。

ネット誹謗中傷対策として裁判所に仮処分の申し立てをする

プロバイダが対応してくれないケースも多い

プロバイダ責任制限法によって、プロバイダが発信者、権利の侵害を受けた被害者に対して負う責任が明確にされました。しかし、だからといって権利侵害を受けた被害者からの送信防止措置要請や発信者開示請求がプロバイダに100%通るわけではありません。
それどころか、発信者開示請求については請求に応じることの方が少ないといっていいでしょう。開示される情報は発信者の本名や住所など、重大な個人情報だからです。

そのため、たとえプロバイダ責任制限法があったとしても誹謗中傷などの被害を受けたときに希望通りの対応を期待できない場合があります。そのとき有効なのが、裁判所を通じて投稿の削除命令や発信者開示命令の仮処分命令を出してもらう方法です。

このとき通常の訴訟を起こす方法もありますが、通常の訴訟では証拠調べや証人尋問などの手続きを減るため、判決が出るまでに数カ月から1年などかなり長い時間がかかります。

一方仮処分は、このままの状態を放置していては利益の損失が大きいため、緊急措置が必要なときにとる手段です。仮の緊急措置であるため、通常の訴訟とは異なり早ければ数週間で裁判所から命令が出ることもあります。

仮処分とその必要性

仮処分とは、裁判所が出す命令のことです。ネット上の誹謗中傷の投稿はどんどん無限に拡散することができるため、放置しておけば誹謗中傷を受けた人の被害は際限なく広がる恐れがあります。

状況を放置しておくことで不利益が著しいと裁判所が判断したとき、一時的に不利益の拡大を食い止めるための暫定的措置として仮処分命令が使われます。

例えば、本名と住所や勤務先を投稿され、「会社で横領をしている」などと嘘の情報を投稿されたとします。情報が拡散されれば会社の人が目にする可能性もありますし、いらぬ疑いをかけられて勤務先での人間関係や業務に支障が出る可能性は大いにあります。
このまま嘘の情報を放置しておけば、被害が広がるのは容易に想像できます。

このように、放置すれば被害が拡大するため、一刻も早くプライバシー権の侵害となっている投稿を削除する必要があることがわかります。

仮処分の申立て

仮処分は、管轄の裁判所で申立てを行うことになります。(仮処分の申立てには「被保全権利」や「保全の必要性」を詳しく記載しなければなりません。
例えば、自分の本名と住所を他人の掲示板などに投稿されていた場合、プライバシー権が保全権利となりますが、相手方のどういった行動によってプライバシー権が侵害されているのかを詳しく記載する必要があります。

それに加えて、権利が侵害されたことによる損害がいかに大きいかなども記載が必要です。
仮処分について詳しくは(リンク:)「SNSや掲示板などネット誹謗中傷の投稿を削除する全手順を公開!」を参照ください。

ネット誹謗中傷投稿の削除や開示請求は弁護士に相談を

プロバイダ責任制限法によって、ネット上の誹謗中傷によって権利を侵害された人もプロバイダに発信者情報開示請求などの手続きが取りやすくなりました。また、プロバイダ側もこの法律によって送信防止措置による損害賠償の免責基準などが明確になることで、より自主的な規制が取りやすくなった一面もあるようです。

しかしその一方で、投稿の削除(送信防止措置)や発信者情報開示はプロバイダ側に決定権があるため、必ずしも希望通りの措置を取ってもらえるとは限らないという問題点は残っています。

誹謗中傷による被害をできるだけ抑えるためには、加えて裁判所の仮処分命令が有効な手段です。しかし仮処分の申立てには専門的な知識が必要となるため、弁護士に仮処分の申立てを依頼することが解決の早道です。

ネット上で誹謗中傷を受けたら、まずは誹謗中傷による被害の拡大を防止するために投稿を削除し、不特定多数にその投稿が閲覧できない状態にすることが先決です。一刻も早い解決のためにも、法の専門家である弁護士に依頼することをお勧めいたします。