総務省の平成28年度の公表データによると、インターネットの利用者数は、人口普及率83パーセントとなっており、年々増加の一途を辿っています。

インターネットの普及に伴い、誹謗中傷による名誉毀損や、著作権・プライバシー権の侵害などのトラブルも数多く起きるようになります。

そこで、このようなトラブルに対処するために、プロバイダ責任制限法という法律が2002年5月に施行されました。

あまり世間ではこの法律について詳しく知っている人は少ないのですが、実はこの法律は、インターネットで誰かとトラブルになったときに一番役にたつ法律ですので、必ず理解しておきましょう。

プロバイダ責任制限法とは

「プロバイダ」ってなに?

まず、法律を理解するにあたって、その「主体」が誰であるかを頭に入れておく必要があります。

例えば、刑法の殺人罪でいえば「人を殺した者は~」、窃盗罪でいえば「人の物を盗んだ者は~」という条文になり、「人を殺した者・人の物を盗んだ者」がその法律の主体になりますよね。

そして、プロバイダ責任制限法では、「プロバイダは~」と条文で書かれているので、プロバイダがこの法律の主体になります。

では、そもそも「プロバイダ」ってなんでしょうか?

プロバイダといえば、インターネットを1度でも契約したことがある人でしたら思い浮かべるのは、OCNやSo-net、BIGLOBEといったインターネットサービスプロバイダ(ISP)ではないでしょうか。

インターネットサービスプロバイダとは、簡単に言えば、皆さんがインターネットを利用するのに必要な鍵(IDやパスワード)を発行している会社です。

ネットの世界に参加するためには必ずこの鍵が必要になるので、インターネットサービスプロバイダに鍵を発行してもらうために契約をしなければならないのです。

では、プロバイダ責任制限法の「プロバイダ」とは、このインターネットサービスプロバイダのことを指すのでしょうか。

プロバイダ責任制限法を読んでみると、プロバイダとは、「特定電気通信役務提供者」と書かれていてます。

そして、特定電気通信役務提供者とは、「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者」と書かれています。

何が書いてあるのかさっぱり分からない人も多いと思われますが、噛み砕いてみると、特定電気通信役務提供者(プロバイダ)とは、「不特定の人が(文字や画像、音声、動画などを)受信することを、機械的な設備やシステムを使って仲介したり、あるいは、その機械設備やシステムを提供する者」という意味になります。

例えば、2ちゃんねるであなたの名誉を傷つける投稿があったとします。

その時にプロバイダ責任制限法の「プロバイダ」となりうるのは、2ちゃんねるを管理運営している者(2ちゃんねるの運営会社)の他、2ちゃんねるでのやりとりが保管されているサーバーの運営者、そして、名誉を傷つける書き込みをした人が契約しているインターネットサービスプロバイダとなります。

このように、プロバイダといっても、一般的に知られているインターネットサービスプロバイダだけではなく、不特定の人が文字や画像・動画・音声などを受信することを仲介する機器的な設備を提供するサーバー運営会社や、そういったやり取りができる場(システム)を提供する、2ちゃんねるなどの掲示板・アメブロなどの無料ブログ・ツイッターなどのSNSの運営者もプロバイダに含まれます。

また、個人で掲示板やブログなどを運営している場合にも、不特定の人が受信することを、掲示板やブログといった設備(システムといったほうが良いかもしれません)を用いて仲介する者として、その個人もプロバイダになるのです。

「責任制限」ってなに?

上記で、プロバイダとは、不特定の人が(文字や画像、音声、動画などを)受信できるよう、機械的な設備やシステムを使って仲介したり、その設備やシステムを提供する者であることを説明しました。

しかしこのプロバイダは、インターネット上でトラブルが起きると大きな責任を負うリスクもあります。

例えば、インターネットの掲示板に自分の悪口と思われる書き込みを発見したAさんがいるとします。そしてその書き込みをした人をBさんとします。

Aさんが、プロバイダに対し、「あなたが提供している設備(掲示板システム、サーバー等)で私の悪口が書かれていることによって名誉が毀損されたので損害賠償を払ってくれ!」と責任追及される可能性もあります。

また逆に、Aさんの申し出でその書き込みを削除したことで、Bさんから、「人の書き込みを勝手に削除するなんて、表現の自由の侵害だ!賠償請求で訴えてやる!」というリスクも孕んでいます。

 

こうなると、プロバイダは、書き込みをした人とされた人との板ばさみになり、どちらかの肩を持ってしまうと、損害賠償責任を負うはめになってしまいます。

これでは怖くてプロバイダなんてできませんよね。

そこで、間に挟まれたプロバイダが、一定の要件を満たせば責任を免れることができますよ、という決め事を法律にしたのが、「プロバイダ責任制限法」です。

一定の要件を満たして初めて責任を免れることができるので、免責ではなく、制限という言葉が使われています。

では、どのような要件を満たせば責任を免れることができるのでしょうか。

これは、権利が侵害されたと主張する人への責任と、発信者(掲示板やブログ、SNSに書き込みをしたり、画像や動画などをアップロードした人)への責任によって、免責される要件が異なりますので見て行きましょう。

権利を侵害されたと主張する人への責任が制限される要件

プロバイダ責任制限法の3条1項で次のように規定されています。

「他人の権利を侵害した情報が不特定の者に送信されることを防止することが技術的に可能で、且つ、他人の権利が侵害されていることを知っていたときや、知ることができたときでなければプロバイダは損害賠償の責任を負わない」

逆に言えば、インターネット上に、人の名誉や著作権を侵害する情報があることを知っていたり知ることができたのに、防止可能なその流通を放置しておいた場合には責任を負うということになります。

発信者への責任が制限される要件

これについてはプロバイダ責任制限法3条2項で次のように規定されています。

「その情報の流通によって他人の権利が侵害されたと信じるだけの相当の理由があったのでその情報を削除した場合や、権利を侵害されたとする者から削除の申し出があったことを発信者に連絡したのに7日以内に反論がないのでその情報を削除した場合は、プロバイダは発信者に対して損害賠償の責任を負わない」

逆に言えば、ネット上の情報が名誉毀損やプライバシー侵害等の人の権利を害することが明確でないときに削除してしまった場合や、発信者に反論の機会も与えずに削除した場合には、発信者に対して責任を負うということになります。

プロバイダ責任制限法は被害者保護の法律でもある

プロバイダは、この法律にしたがって行動すれば責任を免れることができるわけですから一安心と思われますが、しかし裏を返せば、この法律にしたがった行動をとらないと責任を負うということになります。

では、「法律にしたがった行動」とはなにかというと2つあります。

  • ①送信防止措置
  • ②発信者情報開示

漢字だらけで難しく感じる人も多いと思われますが、一言でいえばこのようになります。

  • ①送信防止措置とは、書き込みを削除すること。
  • ②発信者情報開示とは、書き込みした人の個人情報を書き込みされた人に伝えること

この①と②をプロバイダ責任制限法に書かれている手続きにしたがって行って初めて、プロバイダは責任を免れることができるのです。

では、なぜこの法律は、プロバイダに送信防止措置や発信者情報開示といった手続きを執り行うよう定めたのでしょうか。

例えば、皆さんが、ツイッターやFacebookなどのSNS、掲示板やブログなど、インターネット上で誹謗中傷の書き込みをされたときに、一般的には次のようなことを考えると思います。

  • 今すぐ書き込みを削除して欲しい
  • 発信者(書き込みをした人)に対して損害賠償・慰謝料を請求したい

しかし、書き込みの削除や、書き込みをした人への損害賠償の請求はそう簡単ではありません。

なぜなら、書き込みの削除するにはまずはそのサイトの削除依頼フォームから依頼するのが一般的ですが、現実的にはこういったフォームからの削除依頼に応じてくれる割合は多くありません。

また、書き込みをした犯人に賠償請求したくても、ネットは匿名での書き込みが一般的なので、住所はおろか名前すらわからないことがほとんどです。

名前も住所も分からなければ、賠償請求をするための訴訟を起こすことはできませんよね。

しかしこれでは、インターネットの世界が、誹謗中傷・個人情報の流出・プライバシーの侵害・著作権侵害などの温床になってしまいます。

これでは人間が安心した生活を営むことはできなくなってしまいます。

そこで、プロバイダ責任制限法は、書き込みをされた人を救うための2つの手続き(送信防止措置・発信者情報開示)を設け、書き込みをされた人からの依頼があったときにこの手続きを抜かりなく行えば責任を負わないですよという形にしたのです。

もちろん、送信防止措置も発信者情報開示も、書き込みをされた人がプロバイダにお願いすれば必ず行われるというわけではなく、一定の条件をクリアしなければならないものですが、プロバイダ責任制限法が、プロバイダだけの味方でないことはわかっていただけたのではないでしょうか。

プロバイダ責任制限法

ネットに投稿された誹謗中傷の書き込みは削除してほしいと考えるのが当然ですが、削除依頼をすることをプロバイダ責任制限法では「送信防止措置」と呼びます。

プロバイダが送信防止措置をした場合の損害賠償責任の範囲、および発信者情報開示請求について定められています。まずは送信防止措置をした場合の損害賠償責任の範囲について見ていきましょう。

誹謗中傷の被害者は発信者とプロバイダに損害賠償を請求できる

自社が提供しているプロバイダサービスを利用した人がなんらかの権利を侵害する書き込みを投稿したとき、被害を受けた側は発信者に対してもプロバイダに対しても損害賠償を請求することができます。

発信者は誹謗中傷を書き込んだ本人であり、損害賠償を請求できるのは当然です。しかしプロバイダに対しては当然に損害賠償請求が認められるわけではありません。一定条件下ではプロバイダの損害賠償責任はプロバイダ責任制限法によって免責されるのです。
では、プロバイダはどのような条件であれば損害賠償責任が免責されるのでしょうか。

誹謗中傷されている被害者に対する責任の免責

対象となる書き込みが、誹謗中傷にあたるなどして特定個人の権利を侵害していることをプロバイダ側が認識している、または認識していて当然の理由がある時で、その書き込みを不特定多数が閲覧できない状態にすることが技術的に可能な場合に限り、プロバイダは損害賠償の責任を負うと定められています。

ただ、プロバイダに損害賠償責任が免責されるかどうかについての最終的な判断は裁判所が行うことになります。

誹謗中傷の発信者に対する損害賠償責任の免責

送信防止措置を取ってほしいと権利侵害の被害者から要求があったとき、プロバイダは投稿の発信者に対して「この投稿の送信防止措置を取ってもよいか」という意思を発信者に確認します。

プロバイダからの照会に対し、発信者は「防止措置に同意しない」と反論することができますが、このような反論がなく7日が経過した時には、権利侵害にあたるとされる投稿を削除するなどの措置を取ったとしても発信者に対して損害賠償の責任を負いません。

ちなみに、発信者への確認作業はプロバイダの義務ではなく任意となります。発信者と連絡がつかないこともあるからです。また、もしもプロバイダが発信者への確認をするまでもなく「この投稿は被害者の権利を侵害している」と判断すれば、確認なく送信防止措置が取られることもあります。

このほか、選挙など公職に関しても損害賠償の特例が定められています。詳しくはプロバイダ責任制限法3条を参照してください。

誹謗中傷の書き込みをした者を特定する「発信者情報開示請求」

送信防止措置をした場合の損害賠償責任の範囲とあわせ、プロバイダ責任制限法で規定されているのが「発信者情報開示請求」です。

被害者が発信者情報開示請求できるのはどんなとき?

誹謗中傷を受けたりプライバシー権を侵害されたりした場合、対策としてはプロバイダに投稿の削除を依頼することができました。この時点では、誹謗中傷によって権利を侵害された人は発信者を特定して個人情報を知る必要はありません。

しかし発信者に対して損害賠償を請求したい・刑事罰を受けさせたいので刑事告訴したいと考えたとき、被害者はまず誹謗中傷などの投稿をした発信者を特定しなければなりません。

ネット上の誹謗中傷が本名でされることはまずありません。大抵は「捨てアカ」と呼ばれる使い捨てのアカウントやIDで悪質な書き込みがなされます。
発信者を特定するため、被害者はプロバイダに対して「発信者情報開示請求」ができるのですが、どんなケースでも請求が認められるというわけではありません。

プロバイダ責任制限法4条では、以下のケースに該当する場合に発信者情報開示請求の要件を定めています。

  • 誹謗中傷などの権利侵害の書き込みがネット上などに流通することで、権利が侵害されたことが明らかな場合
  • 発信者開示請求に正当な理由があるとき

もしも発信者情報開示請求する場合は、権利侵害によって何かしらの損害が生じていることを主張できなければ情報開示請求が認められないので注意してください。

発信者情報を開示されるのは意外に困難

誹謗中傷を受けたといって発信者開示請求を行ったからといって、必ずしも発信者情報開示がなされるわけではありません。むしろ認められるケースは少ないと言っていいでしょう。開示を請求している情報は個人の本名や住所などは極めて重要な個人情報だからです。

それに、書き込みを行った発信者にしてみれば、できるだけ開示されたくない情報です。
そのためプロバイダ責任制限法では発信者に配慮し、発信者情報開示請求を受けたプロバイダは開示請求をしていいかどうかを発信者に確認するよう定めています。

この確認についてですが、発信者と連絡が取れないなどの事情がない限りは基本的には義務となっています。

プロバイダに損害賠償できる条件とは

発信者情報開示請求にプロバイダが応じないまま誹謗中傷やプライバシー権の侵害などの被害が拡大したとき、プロバイダ側が損害の発生を知っているのに開示に応じない・または知ることが当然なのになんらかの不注意で知ることができずに開示に応じなかった場合(故意・重過失)には、権利侵害を受けた被害者はプロバイダに対しても損害賠償の請求ができます。

逆に、プロバイダが権利侵害によって損害が発生していることを知らないことに正当な理由があるときは損害賠償責任が免責されることになります。

ネット誹謗中傷対策として裁判所に仮処分の申し立てをする

プロバイダが対応してくれないケースも多い

プロバイダ責任制限法によって、プロバイダが発信者、権利の侵害を受けた被害者に対して負う責任が明確にされました。しかし、だからといって権利侵害を受けた被害者からの送信防止措置依頼や発信者開示請求がプロバイダに100%通るわけではありません。
それどころか、発信者開示請求については請求に応じることの方が少ないといっていいでしょう。開示される情報は発信者の本名や住所など、重大な個人情報だからです。

そのため、たとえプロバイダ責任制限法があったとしても誹謗中傷などの被害を受けたときに希望通りの対応を期待できない場合があります。そのとき有効なのが、裁判所を通じて投稿の削除命令や発信者開示命令の仮処分命令を出してもらう方法です。

このとき通常の訴訟を起こす方法もありますが、通常の訴訟では証拠調べや証人尋問などの手続きを減るため、判決が出るまでに数カ月から1年などかなり長い時間がかかります。

一方仮処分は、このままの状態を放置していては利益の損失が大きいため、緊急措置が必要なときにとる手段です。仮の緊急措置であるため、通常の訴訟とは異なり早ければ数週間で裁判所から命令が出ることもあります。

仮処分とその必要性

仮処分とは、裁判所が出す命令のことです。ネット上の誹謗中傷の投稿はどんどん無限に拡散することができるため、放置しておけば誹謗中傷を受けた人の被害は際限なく広がる恐れがあります。

状況を放置しておくことで不利益が著しいと裁判所が判断したとき、一時的に不利益の拡大を食い止めるための暫定的措置として仮処分命令が使われます。

例えば、本名と住所や勤務先を投稿され、「会社で横領をしている」などと嘘の情報を投稿されたとします。情報が拡散されれば会社の人が目にする可能性もありますし、いらぬ疑いをかけられて勤務先での人間関係や業務に支障が出る可能性は大いにあります。
このまま嘘の情報を放置しておけば、被害が広がるのは容易に想像できます。

このように、放置すれば被害が拡大するため、一刻も早くプライバシー権の侵害となっている投稿を削除する必要があることがわかります。

仮処分の申立て

仮処分は、管轄の裁判所で申立てを行うことになります。(仮処分の申立てには「被保全権利」や「保全の必要性」を詳しく記載しなければなりません。
例えば、自分の本名と住所を他人の掲示板などに投稿されていた場合、プライバシー権が保全権利となりますが、相手方のどういった行動によってプライバシー権が侵害されているのかを詳しく記載する必要があります。

それに加えて、権利が侵害されたことによる損害がいかに大きいかなども記載が必要です。
仮処分について詳しくは(リンク:)「ネットの誹謗中傷の書き込みを削除する7つの全手順を徹底解説!」を参照ください。

ネット誹謗中傷投稿の削除や開示請求は弁護士に相談を

プロバイダ責任制限法によって、ネット上の誹謗中傷によって権利を侵害された人もプロバイダに発信者情報開示請求などの手続きが取りやすくなりました。また、プロバイダ側もこの法律によって送信防止措置による損害賠償の免責基準などが明確になることで、より自主的な規制が取りやすくなった一面もあるようです。

しかしその一方で、投稿の削除(送信防止措置)や発信者情報開示はプロバイダ側に決定権があるため、必ずしも希望通りの措置を取ってもらえるとは限らないという問題点は残っています。

誹謗中傷による被害をできるだけ抑えるためには、加えて裁判所の仮処分命令が有効な手段です。しかし仮処分の申立てには専門的な知識が必要となるため、弁護士に仮処分の申立てを依頼することが解決の早道です。

ネット上で誹謗中傷を受けたら、まずは誹謗中傷による被害の拡大を防止するために投稿を削除し、不特定多数にその投稿が閲覧できない状態にすることが先決です。一刻も早い解決のためにも、法の専門家である弁護士に依頼することをお勧めいたします。